請負契約における元請業者の義務とは?
建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければなりません。
元請業者は、下請業者に対して優位な立場にあるため、不適正な元請・下請関係になりがちです。
そのため、工事の適正な施工と公正かつ透明な取引を行うための責任を、元請業者、特に特定建設業許可業者に対して下記のとおり厳しい義務を定めています。
元請業者の義務
- 見積り条件の提示
- 請負金額500万円未満… 1日以上
- 500万円以上5,000万円未満… 10日以上
- 5,000万円以上… 15日以上
- 書面による契約締結
- 不当に低い請負代金の禁止
- 指値発注時の留意点
- 不当な使用材料などの購入強制の禁止
- 一方的なやり直し工事の禁止
- 工期変更の留意点
- 赤伝処理の留意点
元請業者は、下請契約を締結する前に下請契約の具体的な内容を掲示し、下請業者が見積りをするために必要な一定期間を設けなければなりません。
請負契約は、法令により定められた事項を記載した契約書面を用いて、工事の着手前に行わなければなりません。
また、追加工事や工期変更などの契約の追加・変更の場合にも、工事の着手前に行う必要があります。
注文書や請書による契約は、契約書面と同等の要件を満たさなければなりません。
なお、メール等の電磁的記録による契約も認められています。
元請業者は下請業者に対し、取引上優位な立場を不当に利用して、通常必要と認められる原価を割るような取引を強要してはなりません。
元請業者が一方的に決めた請負代金の額を提示して、その額で下請業者に契約を締結させてはいけません。
元請業者が請負代金を提示する場合は、積算根拠を明らかにしたうえで下請業者と十分な協議を行うことが求められています。
元請業者は、下請契約の締結後に資材や機械などの購入先を指定して、下請の利益を害することは禁止されています。
使用資材などの購入の指定を行う場合には、あらかじめ見積り条件として提示し、契約しておかなければなりません。
元請業者は、下請業者の責任でない理由によるやり直し工事を無償で行わせてはなりません。
やり直し工事を下請業者に依頼する場合は、契約の変更をして適正な追加代金を支払う必要があります。
元請業者は、下請業者の責任でない工期変更が必要となった場合、その工期変更に起因する費用を下請業者の負担としてはなりません。
下請代金の支払い時に、支払手数料や施工に伴い発生する建設廃棄物の処理費用、その他の諸費用を強制的に相殺してはなりません。
赤伝処理を行うには、その内容を見積り条件に掲示して合意を得ておく必要があり、契約書面に明示し、下請業者の過剰な負担とならないようにする必要があります。
特定建設業許可業者である元請業者としての義務
- 支払留保の禁止
- 長期手形の禁止
- 施工体制台帳の作成
元請業者は、請負代金の出来高部分の支払いや工事完成後に支払いを受けたときは、その支払いを受けた日から1ヶ月以内に、下請業者などにすみやかに支払うことが義務づけられています。
また、特定建設業許可業者が元請の場合に、下請業者から目的物の引き渡しの申し出があったときは、たとえ工事完成前で発注者から支払いを受けていなくても、申し出のあった日から50日以内にできるだけ早く下請代金を払わなくてはなりません。
この期限に遅れた場合には、未払い金額に一定率を乗じた損害利息の支払い義務があります。
ただし、下請業者が特定建設業許可業者の場合と、資本金が4,000万円以上の一般建設業許可業者の場合を除きます。
特定建設業者が元請の場合、下請契約における代金の支払いはできるだけ現金払いとし、現金と手形払いを併用するときも現金比率を高くするとともに、労務費相当分は全額を現金払いにするよう定められています。
手形の期日は120日を限度として、できるだけ短くすることが求められます。
また、下請業者が資本金4,000万円未満の一般建設業許可業者である場合は、下請代金の支払いに一般の金融機関による割引を受けることが困難な手形を交付してはなりません。
元請工事において、下請業者への発注金額の総額が4,000万円(建築一式工事は6,000万円)以上となる場合、建設工事の適正な施工を確保することを目的として、特定建設業許可業者である元請業者に「施工体制台帳」の作成が義務付けられています。
また、公共工事については下請金額の制限なしに「施工体制台帳」の作成が義務付けられました。
この特定建設業許可業者のことを「作成特定建設業者」と呼びます。